大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)11102号 判決 1996年12月25日

原告 有限会社ミユキ工芸

被告 株式会社げんよう

主文

一  被告は、平成九年一月一一日まで、別紙被告商品物件目録記載のキーホルダーを製造し、販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金七四〇万円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを一〇分して、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決の第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、別紙被告商品物件目録記載のキーホルダーを製造し、販売してはならない。

二  被告は、別紙被告商品物件目録記載のキーホルダー及びその製造に供した金型を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金七四〇万円及びこれに対する平成七年六月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、被告が製造、販売する別紙被告商品物件目録記載のキーホルダー(以下「被告商品」という。)は、<1>原告が製造、販売し、その形態が原告の商品であることを表示するものとして広く知られている別紙原告商品物件目録記載のキーホルダー(商品名「ドラゴン・ソード」。以下「原告商品」という。)と形態が類似しており、原告商品と混同を生じさせている、<2>原告商品の形態を模倣した商品であると主張し、被告商品の製造、販売行為は、<1>の点で不正競争防止法二条一項一号に、<2>の点で同項三号にそれぞれ該当する不正競争行為であるとして、同法三条に基づき右行為の差止並びに被告商品及びその製造に供した金型の廃棄、同法四条に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  判断の基礎となる事実

1  当事者

原告と被告は、いずれもキーホルダーなどの土産物の製造、販売を業とする会社である(争いがない)。

2  原告の商品

(一) 原告商品の形態は、別紙原告商品物件目録のとおりである(検甲第二号証)。

(二) 原告は、原告商品を、平成六年一月一二日から、製造、販売しており、平成六年二月から九月までの販売総数は二七万九九〇〇個である(甲二ないし五、弁論の全趣旨)。

3  被告の商品

(一) 被告商品の形態は、別紙被告商品物件目録のとおりである(争いがない)。

(二) 被告は、被告商品を、平成六年八月末ころから、製造、販売している(甲二、三、五、乙二、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  原告商品は、その形態が、原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているか。また、被告商品は、原告商品と類似し、原告商品と混同を生じさせているか。

2  被告商品は、原告商品の形態を模倣したものであるか。

3  損害額

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(原告の主張)

原告商品は、そのデザインの斬新さ、外観の勇壮さから、消費者の間で人気を博し、平成六年九月三〇日までに、累計総売上個数が二七万九九〇〇個となるヒット商品となった。

原告は、業界紙で原告商品を広告するなどし、その結果、平成六年九月三〇日ころまでに、原告商品は、卸問屋、土産物店等の取引業者間で、その商品形態が、原告の商品を表示するものとして広く認識されるようになった。

被告商品は、原告商品と形態が極めて類似し、卸問屋または土産物店などの市場で競合しているため、取引業者の間においてさえ現実に混同が生じている。

(被告の主張)

(一) 訴外翼企画は、原告商品が販売されるかなり以前から、別紙類似商品目録A記載の竜と剣をかたどったお守りを販売しており、この商品が竜を題材にした商品のオリジナルである。

竜と剣を題材にした同種のキーホルダーは従前から数社によって販売されており、訴外有限会社フリー企画(以下「フリー企画」という。)は、別紙類似商品目録B、C記載のキーホルダー(以下「フリー企画商品」という。)を、平成五年一〇月より前から企画し、有限会社杉浦金属工業に製造させて、平成六年一月一三日から販売している。

フリー企画商品と、原告商品が極めて類似しているのは、従前から同種商品が市場に多数出回っていたからであり、似ているとしても偶然である。

したがって、原告商品の形態が、被告商品の販売開始前に、原告を示すものとして広く知られていたとの事実は存しない。

(二) キーホルダーは、商品形態そのものに商品価値があるのであって、特定の業者の商品表示ではないから、商品主体に誤認混同が生じるおそれはない。

観光地における土産物の流通形態は、企画会社が新商品を企画し、一次卸問屋などと協議したうえで売れる見込みがあるときに商品化され、二次卸問屋等を経由して土産物屋へ卸され、店頭で販売されるようになる。

企画会社、卸問屋、土産物屋は企業グループ的な結合があり、ともに継続的に商品を供給する趣旨の契約を結んでいる場合がほとんどである。企画会社が同一商品を複数の卸問屋に卸すことはなく、卸問屋間で競業することはほとんどない。

このように卸問屋間での競業がないのであるから、仮に土産物の商品形態が周知となって表示機能を獲得しても、商品主体に関して誤認混同することはあり得ないのであり、本件の原告商品、被告商品も同様の意味で、商品主体の誤認混同が生じることはあり得ない。

2  争点2について

(原告の主張)

(一) 原告商品と被告商品の形態の差異は、被告商品がやや大きめであり、竜が双頭である外は、その形状はほぼ同一であり、需要者に与える印象も同一または類似している。

このように原告商品と被告商品の形態が酷似していることと、原告商品がヒット商品となった後に、被告商品が市場で販売されるようになった事実から、被告が、原告商品のヒットに便乗してその形態を模倣して被告商品を製造したことは、経験則上明らかである。

(二) 被告主張にかかるフリー企画商品が被告商品販売前に販売されていたことは否認する。

仮にフリー企画商品が、被告主張の時期に販売されていたとしても、原告がフリー企画商品を模倣したことはないのであるから、被告の主張は無意味である。

被告は、他社の商品について種々主張するが、被告商品ほど、原告商品に酷似した商品は存しない。

(被告の主張)

(一) 竜と剣を題材にした同種のキーホルダーが、原告商品が販売される前から、複数販売されていたことは、争点1(被告の主張)(一)のとおりである。

原告は、フリー企画に対し、フリー企画商品が原告商品に類似していると主張してその販売の中止を求めたことがあるが、フリー企画商品の販売時期が原告商品の販売時期よりも早かったことが明らかとなったため、フリー企画に対し何の法的手続もとっていない。この事実は、原告商品がオリジナルでないことを示している。

そもそも、原告商品の竜は、漫画「ドラゴンボール」を参考にして創られたことは明らかで、独自に創作されたものではないから、原告にその商品形態を独占させるべきではない。

(二) 被告は、被告商品を、外部デザイナーを用いて独自に開発したものである。

すなわち、被告は、平成六年五月ころから、剣と骸骨、剣と竜、剣と蛇を組み合せたキーホルダーを企画し、そのデザインを、外部のデザイナーである訴外和田洋一に依頼し、同年六月三日ころ、デザイン画の納入を受けて、試作の末、当初案のうち、剣と骸骨、剣と竜を組み合せたキーホルダーのみを商品化することとし、被告商品及び別紙類似商品目録D記載の商品を同年八月下旬ころから、卸業者に納入するようになった。被告は、それ以前に原告商品を見たこともないし、また販売されていたことも全く知らない。また、原告商品と被告商品は、竜と剣の題材が共通するだけで、被告商品が双頭の竜であることから明らかなように両商品の形態は酷似しておらず、およそデッドコピーとはいえない。

したがって、被告商品が原告商品の形態を模倣したものであるとの主張は失当である。

3  争点3について

(原告の主張)

被告は、平成六年九月三〇日から平成七年六月八日までに、被告商品を、一個一〇〇円で少なくとも二〇万個販売した。

被告商品販売による利益率は少なくとも三七パーセントであるから、被告は、被告商品の販売により、少なくとも七四〇万円の利益を受けた。

したがって、被告が受けた右利益が、被告の不正競争行為により原告が受けた損害の額と推定される。

(被告の認否及び反論)

原告の主張は、否認する。

被告は、被告商品を外部の業者に委託して製造させ、八〇円で仕入れ一二〇円で原告主張期間中に五万個販売したが、売れ残った場合返品されるので、実販売個数及び販売による純利益を確定することはできない。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  平成六年二月から九月の間の、原告商品の販売数量が、二七万九九〇〇個であることは前記のとおりであるところ、被告の取引先であり、同年八月末までに合計約七万六〇〇〇個の原告商品を販売した卸問屋三社が作成した各陳述書(甲第二、三、五、七ないし九号証)には、キーホルダーを取り扱う業界においては、一般的に一〇万個以上販売されるとヒット商品として業界内で周知になること、原告商品については、平成六年五月初旬にはヒット商品として業界内で周知になった、あるいは同年六月ないし七月にはヒット商品としての地位を固めたとの記載がある。

しかしながら、乙第二号証によれば、被告一社でも五〇〇種類を越える数のキーホルダーを取り扱い、毎年一〇ないし二〇種のキーホルダーを新たに作り出していることが認められ、全国にある土産物店及び卸問屋の数を的確に認定するに足りる証拠はないものの、キーホルダーを取り扱う土産物店の数が極めて多数に上ること、その製造業者及び卸問屋に限っても相当数存在するであろうこと、そして、それらの業者によって国内で土産物用に製造、販売されているキーホルダーの種類も、これまた極めて多数に及ぶことは当裁判所に顕著な事実である。そして、一般に土産物として販売されているキーホルダーの本件部分は、それぞれ多かれ少なかれ特徴のある形態を有することは公知の事実であるから、個々のキーホルダーの本体部分がそれ自体としては特徴のあるデザインのものであったとしても、多種、大量に取り引きされるキーホルダーの中では、その特徴は埋没しがちであること、しかも土産物用キーホルダーが一般に安価な商品であることに加え、乙第二号証によれば、製造業者、卸問屋、土産物店はそれぞれの系列関係をもって取引をしていると認められることを考慮するならば、キーホルダーが販売開始後半年余りで取引業者の間で、その形態のみで出所表示機能を営むほどに周知となったというためには、その販売数量が一時的に同種商品の中で多いというだけではなく、その形態自体が相当特色のあるものでなければならないことは勿論、短期間であっても強力な宣伝、広告がされた、あるいは何らかの話題性があり各種報道機関により相当量報道されたとか、爆発的な売れ行きを示した等の間接事実により、その商品形態が当該営業者の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く知られていることが推認できるか、中立的な調査者が統計学等科学的に裏付けられた手法によって実施した調査によって、その商品形態が当該営業者の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く知られていることが示されることを要するものである。

これを原告商品について検討すると、原告商品の形態に酷似した形態を有する先行商品があることを認めるに足りる証拠はなく、原告商品を、鍵を取り付けるリング部、後記洋剣と竜をデザインした本体部、リング部と本体部を結合する連結部に分けた場合、リング部と連結部の形態はキーホルダー一般に共通の形態であるのに対し、本体部分はありふれた形態ではなく、一応の特色を有する形態であるものと認められる。

しかしながら、前記認定程度の販売数量から、この種商品を多種類かつ大量に取扱う業者間において、売れている商品だという認識を越えて、原告商品の形態がその出所を表示するものとして広く知られるに至ったものとはいまだ認めるに足りない。

前記甲第二、三、五、七ないし九号証中の記載からは、前記認定のような業者間の取引の実態を考慮すると、原告と取引のある各卸問屋がその取扱商品のなかで、原告商品をヒット商品として認識するようになったことは認めることができるが、それ以上に原告商品を取り扱わない第三者をも含めて広く関係業者間の認識として原告商品の形態がその出所を表示するものとして周知になったことを認めるには足りない。

3  したがって、被告の行為が不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当することを理由とする原告の請求は、その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がない。

二  争点2について

1  不正競争防止法二条一項三号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態をまねてこれと同一または実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、行為の客体の面において、他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に形態が同一であるか実質的に同一と言える程に酷似しており、かつ、行為者の認識において、当該他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか、実質的に同一と言える程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していることを要し、それをもって足りるものであり、行為者の意図としては、当該他人の商品の形態を参考にして、あるいは大幅の改変を加えて新たな形態の商品を作り出したものと認識していたとしても不正競争行為に該当することを免れない。

すなわち、商品形態の創作性を問わず、商品販売開始後三年間に限って模倣商品の譲渡等を不正競争行為とした本号の趣旨は、他人の商品の形態をそのまま模倣することによって、他人が、費用、労力をかけて開発した成果である商品の形態を許諾なく利用して、開発のコストを節約する一方で商品の開発につきものの失敗の危険を小さく抑えつつ、当該商品を開発した他人と、同じ商品について市場で競争しようとすることは、競争のあり方として不当な行為であるので、そのような行為を不正競争とすることにより商品を開発して市場においた者の先行利益を一定の期間保護することにあるところ、既に存在する商品の形態とこれに依拠して作られた商品の形態とが完全に同一ではなく、両者の間に相違点があるとしても、その相違点が当該商品全体からすると微細であり、商品全体として観察すれば、両者の形態が実質的に同一と認められる場合には、競争のあり方として不当なことは、両者の形態が完全に同一である場合とかわりがなく、また、客観的には他人の商品の形態と実質的に同一と認められる商品形態を他人の商品形態に依拠して作り出した以上、主観的に単に参考にしたにすぎないとか新たな形態の商品を作り出したものと認識していたとしても、競争のあり方としての不当性にかわるところがないからである。

2  これを本件についてみると、原告商品、被告商品の形態は別紙原告商品物件目録、被告商品物件目録のとおりであり、各商品の形態の特徴を文言で表すと次のとおりと認められる。

(一) 原告商品(検甲第二号証)

(1)  本体部分は、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形をなす双刃の洋剣の刃先を下方に向けたものに、竜が、下方の洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に浮彫りされている。本体部分の上端の孔に連結部の一端の環が挿通され、連結部の他端の環に鍵を保持する大きな円形のリングが挿通されている。

(2)  本体部の表面から見ると、竜は鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分の右側に左前足をかけ、頭部を柄上端部分に右上方から左斜め下方に向けており、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開け、牙を見せている。竜の胴体は洋剣の刃体の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回って尾の先が刃先の左方に表われている。

(3)  本体部分の大きさは、縦約六・八センチメートル、横最大幅約二・七センチメートルである。

(4)  本体部分の表面側の略十字形の洋剣の十字の中心部分には、宝石状にカットされた円い形状の紅色のガラス玉がはめ込まれている。

(5)  本体部分の裏面部分は、右(1) 、(2) の状態の裏側を見るように、下から上に竜が洋剣に巻きつく形状に浮彫りされている。

(6)  全体の色彩は、金属的光沢を有する黒味を帯びた銀色である。

(7)  竜の顔、鱗などの彫りは幾分浅く、鋸刃状の背鰭は大きめである。

(二) 被告商品(検甲第一号証)

(1)  本体部分は、全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形をなす双刃の洋剣の刃先を下方に向けたものに、竜が、下方の洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に浮彫りされている。本体部分の上端の孔に連結部の一端の環が挿通され、連結部の他端の環に鍵を保持する大きな円形のリングが挿通されている。

(2)  竜は胴体の両端に頭部のある双頭の竜と見られるが、本体部の表面から見ると、柄部分側の頭を前と考えて、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分よりやや右側に左前足をかけ、前の頭部を柄上端部分に右上方から左斜め下方に向けており、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開け、牙を見せている。竜の胴体は洋剣の刃体の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回って刃先の左方のもう一方の頭部(後側の頭部)となっている。竜は、両後足(後側の頭部から見ると両前足)で刃体下方の最も幅の広い部分を両側からつかみ、後側の頭部は、左下から右斜上方に向いており、柄部分の頭部と向き合って、にらみながら威嚇するように口を開け、牙を見せている。

(3)  本体部分の大きさは、縦約八センチメートル、横最大幅約四センチメートルである。

(4)  本体部分の表面側の略十字形の洋剣の十字の中心部分には、宝石状にカットされた円い形状の薄紫色のガラス玉がはめ込まれている。

(5)  本体部分の裏面部分は、右(1) 、(2) の状態の裏側を見るように下から上に竜が洋剣に巻きつく形状に浮彫りされている。

(6)  全体の色彩は、金属的光沢を有する黒味を帯びた銀色である。

(7)  竜の顔、鱗などの彫りは深く、鋸刃状の背鰭は小さめである。

3(一)  右2の事実及び検甲第一号証、検甲第二号証によれば、原告商品と被告商品は、キーホルダーとして通常の形態であるリング部及び連結部の形態を共通にするのは勿論のこと本体部分の形態が、<1>全体が金属製で偏平であり、柄及び刃体と鍔部とが交差して縦長の概略十字形で表面側の十字の中心部分に宝石状にカットされた円い形状のガラス玉がはめ込まれている双刃の洋剣に、竜が、洋剣の刃先部分から、刃体、鍔部、柄部と上方に向けて左巻きにほぼ二巻き螺旋状に巻きついた状態に表側、裏側共に浮彫りされている形態の基本的構成、<2>柄上端部分の竜の頭部は右上方から左斜め下方に向けて、同方向をにらみながら、威嚇するように口を開けて、牙を見せており、鍔部の左端に右前足を、柄部と鍔部の交差部分の右側に左前足をかけ、胴体が洋剣の中程の手前側を左上から右下へS字状にうねり、刃体の裏側を回っている洋剣に巻きつく竜の具体的形態、<3>金属的光沢を有する黒味を帯びた銀色という色彩が共通している。

(二)  他方、右2の事実及び検甲第一号証、検甲第二号証によれば、原告商品と被告商品の各本体部分の形態には、<1>原告商品では、洋剣に巻きついているのが頭部が一個の通常の竜であり、表側から見て洋剣の刃先の左方に尾の先が表われているのに対し、被告商品では、胴体の両端に頭部のある双頭の竜であり、表側から見て洋剣の刃先の左方にもう一つの頭部がある点、<2>原告商品では縦約六・八センチメートル、横最大幅は約二・七センチメートルであるのに対し、被告商品では縦約八センチメートル、横最大幅は約四センチメートルである点、<3>鍔部にかけた竜の足の鍔部のつかみ方、竜の顔、背鰭、鱗の形状の詳細及び彫りの深さ、ガラス玉の色の点で異なっていることが認められる。

(三)  右(一)に認定した原告商品と被告商品との全体の形態の共通点、とりわけ<1>ないし<3>のような本体部分の形態の同一点が、形態の基本的構成、形態の重要な構成要素の一つである竜の具体的形態、本体部分の色彩という、両商品の形態の主要部分にかかわることであるのに対し、右(二)に認定した原告商品と被告商品との本体部分の相違点のうち、<1>は竜の形態にかかわるものではあるが、本体部分の全体の形態の中では、印象が弱いこと、<2>の大きさの違いもわずかなものであること、<3>は右(一)に認定した共通部分の細部の相違点であることを考慮すれば、被告商品は、原告商品を直接原型として型どりをした金型から製造されたものとはいえないものの、両者の形態は酷似しており、実質的に同一であるということができる。

4  被告商品が、原告商品の販売開始後八ヶ月以上経過して販売が開始されたものであり、その間に原告商品は約二八万個販売されたものであり、後記5のとおり被告商品のデザインが被告に納品される以前の平成六年五月までに限っても九万七〇〇〇個余りが販売されたこと(甲第四号証)、原告と取引のある卸問屋ではヒット商品と認識していたものであることに加え、原告商品や被告商品のような土産物店には同業者が軒を並べて立地し、他店の取扱商品中顧客に人気があり売れ行きの良い商品が何であるかを認識し易く、卸問屋、製造業者も売れ行きの良い商品についての情報を得やすいものと推認できること、前記1ないし3のとおり原告商品と被告商品とは酷似しており、その程度は原告商品を見ないで製造した被告商品が偶然に原告商品に似たものとは到底考えられない程であり、他方、原告商品自体第三者の商品あるいはデザインを模倣したものであり、被告商品もその第三者の商品あるいはデザインを模倣したものである場合や原告商品を模倣した第三者の商品を模倣して被告商品が作られた場合にも原告商品の形態と被告商品の形態が前記のように高度に類似する可能性はあるが、そのような第三者の商品、デザインの存在をうかがわせるに足りる証拠すらないことを考慮すると、被告商品は原告商品に依拠して作られたものであることが優に推認できる。

5  右3、4に判断したところによれば、被告商品は原告商品を模倣したものと認められる。

被告は、竜と剣の組み合わせからなるキーホルダーは、原告商品が販売された時期には既に複数の会社から販売されていたし、原告商品の竜が漫画「ドラゴンボール」の竜に似ていると主張し、また、被告商品は、社外のデザイナーにデザインさせて開発したものであり、被告は原告商品をみたこともない旨を主張する。

しかし、被告が複数の会社が販売していたと主張する類似商品の形態は、別紙類似商品目録AないしC記載のとおりであるところ、別紙類似商品目録A記載のものについては、竜と剣という題材は、原告商品と共通するが、商品自体お守りであって原告商品と異なり、形態も色も原告商品とは似ても似つかないものであり、別紙類似商品目録B、C記載のものはキーホルダーであり、洋剣に竜がからみついているという形態の基本的なイメージは、原告商品及び被告商品と共通するところはあるが、原告商品及び被告商品と対比して観察すると、洋剣の形状は太く、短く、竜の洋剣に対する巻きつきかたも異なるし、竜が全体に太く、特に裏面からみた場合に、後ろ足のつき方が顕著に異なっており、全体として類似性は見出しがたいから、いずれも被告商品が原告商品を模倣したものとの結論を左右するものではない。

また、別紙類似商品目録記載の商品以外の第三者の商品で、原告商品に類似した形態の商品が出回っていたことを認めるに足りる証拠はなく、更に漫画「ドラゴンボール」に登場する原告商品の竜に似ているという竜の形態について認めるに足りる証拠はないのみか、原告商品と被告商品との実質的同一性は竜の形態のみを根拠とするものではないから、被告商品が原告商品を模倣したものであることを否定することはできない。

被告代表者は、平成六年五月頃、剣と竜を題材にしたキーホルダーが数社から出回っていると同業者から聞き、被告もその種の商品を企画することとし、同年五月一七日頃、商品企画を委託している社外の契約デザイナーである和田洋一に「剣に竜、骸骨、蛇がからみついたデザインを製作してほしい。」旨依頼して同年六月三日に三種類のデザインが納品されたが、被告はそのうちの二種類だけを商品化することとし、金型製作を経て商品を製作したもののうち一種類が被告商品であるが(乙第二号証)、そうだとしても、被告商品の開発にあたり被告の委託を受けた社外デザイナーが原告商品を模倣してデザイン画を描いたものと推認できるのであるから、そのデザイン画に基づいて作られた被告商品もなお原告商品を模倣したものというべきであり、たとえ被告がそのデザイナーに具体的に原告商品の形態を模倣することを指示しなかったとしても、被告商品が原告商品を模倣したものであるとの判断を左右することはできない。

三  差止請求、廃棄請求、損害賠償請求の責任原因

右二に判断したところによれば、被告が被告商品を販売する行為は、不正競争防止法二条一項三号に規定された不正競争行為に該当するところ、これにより原告が営業上の利益を侵害されることは明らかであるから、原告が、被告に対し、右行為の差止を求める請求には理由があり、また、右行為の停止又は予防に必要な行為として、その製造の差止を求める請求には理由がある。

(なお、原告商品の販売開始時期が平成六年一月一二日であることから、同号該当を理由とする製造、販売の差止請求が可能であるのは、原告商品を最初に販売した日から起算して三年が経過する平成九年一月一一日までであることが明らかであるから、主文第一項にそのことを明記することとする。

また、不正競争防止法二条一項三号の解釈上、他人の商品の形態を模倣した商品を製造すること自体は不正競争に該当しないから、被告商品及びその製造に供した金型は同法三条二項の適用上、侵害行為を組成した物、侵害の行為により生じた物、侵害の行為に供した設備には該当せず、その他の侵害の停止又は予防に必要な行為に該当するか否かが問題となるところ、被告製品の製造、販売の差止請求権の存続期間があとわずかな期間であることに照らせば、被告商品及びその製造に供した金型の廃棄請求は、侵害の停止又は予防に必要な行為としては相当ではないのでこれを棄却する。)

そして、新たに企画する商品のデザインを自社で行わず社外のデザイナーに発注する以上、自社でデザインするのと同様にデザイナーに対し他社の商品のデザインを模倣することのないよう厳重に注意すると共に、例えば、デザイナーが真に独創的なデザインの想を練ることができる十分な余裕をもって納期を定め、十分な報酬を約束するなどし、納入されたデザインについてもそれが他社の商品の形態を模倣したものでないか、他社の商品と対比調査し、他社の商品を模倣した商品の製造、販売に至ることのないよう注意すべき義務があるのに、剣と竜を題材にしたキーホルダーが数社から出回っていると聞いて被告もその種商品を企画することとし、デザイナーに「剣と竜、骸骨、蛇がからみついたデザインを製作してほしい。」旨依頼するなど、他社がやるから自社もとの発想でデザインを発注し、発注からわずか一七日後に三種類のデザインの納入を受けたもので、デザイナーが他社の商品の模倣をしないよう厳重に注意した形跡も、納品されたデザインに基づき被告商品の商品化を決定するに当たり同種、類似の形態の商品の有無の調査をした形跡もなく、漫然と被告商品の商品化をして前記不正競争行為に至った過失があるから、これによって原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

四  争点3について

1  原告は、被告は平成六年九月三〇日から平成七年六月八日までに被告商品を一個一〇〇円で少なくとも二〇万個販売し、その利益率は少なくとも三七パーセントであるから、被告は被告商品の販売により少なくとも七四〇万円の利益を受けたと主張し、被告は、右期間中、製造委託先から一個八〇円で仕入れた被告商品を一二〇円で五万個販売したことを自認しつつ、返品数が確定できないから、実販売数及び販売による純利益について認否できない旨主張する。

被告が右自認する以上に、被告商品の販売数、販売利益を直接認めるに足りる証拠はない。

ところで、当裁判所は、原告の申立て(平成八年(モ)第一九一八号)により、不正競争防止法六条に基づき、被告に対し、被告の本件不正競争行為による損害の計算をするために必要な書類として、平成六年九月三〇日から平成七年六月八日までの間の被告商品の製造、販売に関する<1>総勘定元帳、<2>売上台帳(得意先別元帳)、<3>買掛台帳(仕入先別元帳)、<4>売上伝票、仕入伝票、納品書、受領書、<5>確定申告書控(添付書類一切を含む)、<6>販売実績表、売上粗利益表、製造原価計算表を、本決定確定後一〇日以内までに当裁判所に提出すべき旨を命ずる決定をし、右決定は平成八年八月二日に被告に送達され、同月九日の経過により確定したが、被告は、当裁判所が命じた本決定が確定した一〇日後である同月一九日を経過しても、本件口頭弁論の終結に至るまで、提出を命じられた前記書類を提出していない。

前記のとおり被告の自認する事実、当裁判所の文書提出命令にあえて従わない被告の態度に、原告が、平成六年二月から九月までの間に原告商品を二七万九九〇〇個販売した事実は前記第二の一の2の(二)のとおりであるところ、原告が、取締役が二名、資本金三〇〇万円の有限会社であり、これに対し被告もその当時資本金四〇〇万円の株式会社であって、彼我の会社の規模に格段の差があるものとも認められないことからすると、被告が八ヶ月の期間中に被告商品を二〇万個を製造、販売することも特段、不合理ではないことを総合すると、被告は平成六年九月三〇日から平成七年六月八日までの間に、被告商品を一個につき三七円の利益を得て合計二〇万個販売し、合計七四〇万円の利益を得たものと認められるから、不正競争防止法五条一項により、原告は、右と同額の損害を受けたものと推認される。

2  よって、被告の不正競争行為による損害賠償金として金七四〇万円及びこれに対する不正競争行為の後である平成七年六月二〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合よる遅延損害金の支払いを求める請求は理由がある。

(裁判官 西田美昭 森崎英二 池田信彦)

別紙類似商品目録AないしD<省略>

原告商品物件目録

被告商品物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例